山田ルイ53世が快挙 「雑誌ジャーナリズム受賞作」に込めた思い


髭男爵の山田ルイ53世 (C)ORICON NewS inc.

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 「こういう賞をいただけるのが想定外です。一発屋総選挙以来の賞ですから、これ本当にありがとうございますということですよね」。芸人初の快挙に、髭男爵山田ルイ53世の顔も晴れやかだった。月刊誌『新潮45』(新潮社)で連載していた、一発屋芸人たちを対象にしたルポルタージュ形式の『一発屋芸人列伝』が、「第24回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の作品賞を受賞。3月23日に行われた授賞式では、政界、芸能界を揺るがせたさまざまなスクープとともに表彰を受けたが「ちょっと芸能界の人間としてはヒヤッとする内容もありましたから、その時は静かに下を向きました」と柔和な表情をこちらに向けた。

【写真】「第24回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の作品賞を受賞

 一発屋芸人たちにスポットを当てて、軽やかな筆致ながらその奥深さに迫った力作『一発屋芸人列伝』(新潮社)が31日に書籍として発売される。レイザーラモン、コウメ太夫、テツandトモ、ジョイマン、ムーディ勝山、天津・木村、波田陽区、ハローケイスケ、とにかく明るい安村、キンタロー、そして髭男爵…。そうそうたる顔ぶれに山田は「今、パッと本の目次のページを見てみると、並んでいる一発屋が墓標のようですね(笑)。これは壮観ですよね。数ある出版物の中でも、とりあえず目次の斬新さ、メッセージ性、物悲しさで勝っていると思います。みなさんのおかげで、受賞させていただくことができました」と自虐を交えながら感謝の言葉を紡いだ。

■ジャーナリズム界での高評価に驚き 受賞で沸き立った特別な思いとは?

 1994年から毎年行われている雑誌ジャーナリズム賞は「編集者が選び、編集者が贈る賞」をコンセプトに、雑誌ジャーナリズムを志す人々にできるだけ門戸を広げ、有望な書き手と雑誌界全体の発展に少しでも寄与できればという願いを込めて創設。各出版社、新聞社の編集者有志によって運営が行われ、今回の賞は2017年中に掲載された記事および作品を対象に選定され、山田は『新潮45』1月号に掲載された石井妙子氏による『小池百合子研究 父の業を背負って』と並んで作品賞を受賞した。

 一発屋をテーマにした連載が“ジャーナリズム”としての評価を受けた。「授賞式の会場はジャーナリズムが満ちていて、コメディーはなかったですね(笑)。芸人にもいろんな方がいて、正統の方は受賞に受賞を重ねて売れていく訳です。漫才・コントの賞レース、そういうものを通してメジャーになっていく、売れていくんですが、我々みたいなコスプレキャラ芸人の類は、打ち上げ花火のように売れる…という特殊な売れ方なんです。人にほめられるとか、何かの賞をもらうといったことがないので、その意味でも今回の受賞は驚きです」。作品のテーマゆえ、万感胸に迫る思いだった。

 「マネージャーさんから受賞したことを知らせるメールをいただいた時、何かわからないですけど『売れた』と思いましたね。心のどこかで、自分だけのことじゃなくて『それ見たことか』という気持ちもあって、普通の芸人さんが何かの賞をいただくよりも、一発屋とレッテルを貼られた人間が、こういった別ジャンルの賞をいただけるのが『どや!』という気持ちになりました。その時に、ほかの一発屋たちの顔が脳裏によぎりましたね」。

 2015年には自身の経験をつづった『ヒキコモリ漂流記』(マガジンハウス)を出版しているが、対象者への取材を行った上で自身の見解をまとめたものを1冊の本として発売するのは今回が初。「書いていて一番つらかったのは、ムーディ勝山と天津木村のロケバス事件(※)です。あれを書いている時は『なんか、ルポ書いているな』という感覚はありました(笑)。そういう意味で言えば、おこがましい話ですが、週刊誌の記者の方々はこんな感じで記事を書いているのかなと、ちょっとだけ思いました。でも、やっぱり記者の方や作家のみなさんはすごいなと。今回の僕の場合は、ある程度知っている業界ですから、話を聞いて書くことができますけど、みなさんは全く知らない業界を行くわけですから。本職の方のすごさを改めて実感しましたね」。
(※)ロケバスを運転することができる免許を取得したムーディが、ブレイク以降再びテレビで注目を集めていることに触発され、木村も同じ免許を取得すると宣言したことから端を発した事件。

■意識した取材相手への距離感と文章のテンポ感 小説デビューに色気も

 芸人が芸人のことを書くのは難しい。過度に持ち上げすぎると、読者から冷めた目で見られてしまうが、逆に思ってもいない言葉で相手をけなすと本意から外れてしまう…。そのさじ加減は常に意識していた。「ちょうどいい距離感で文章を書くというのは難しかったですね。一発屋のみなさんをあんまりひいき目で見ることなく、みなさんすばらしいことを発明する才能があって、今でもやっていますよということを書きたかったので、そこが伝わればうれしいですね」。その言葉通り、対象者である一発屋芸人たちの魅力が存分に伝わる内容に仕上がっているが、緻密に張り巡らされた伏線、テンポ感のある文体がそれを際立たせている。

 「やっぱり、文章は1回頭の中で読みますから、テンポ感にはこだわりました。ネタ中のひぐち君のせりふを書く時も、この文字数だと語呂が悪いとか、ここは語尾を濁す感じで…という風にやっているんです。相方の言えるせりふや演じられる文字数とかがすごく限定されていて、漫才を書いている時に悩んでいたので、その経験が生きているかもしれないです(笑)。ちょっと歯がゆいのが、僕がネタで結果を出していれば、この話も生きてくるんですけど、コスプレキャラ芸人ですから、この話に対するフリの部分がないわけですよね(笑)。そんなにネタにこだわるような、ストイックな芸風ではないですが、実はいろいろ緻密に考えていますということは、恥ずかしながら言わせていただきたいです」。

 今回ノンフィクション作品としての高評価を受け、今後は“小説”という形でのオファーも殺到しそうだが「みなさん、小説ってどんな感じで書き始めているんですか? オファーを受けるのか、それともまず自分で書いているのか…」と記者に逆質問。「書きたいなと思っていることを書き留めていたりはするんですけど、果たしてそれが面白いのか、商品というか作品になるのかわからないです。ただ、こういう風に『いくつか考えています』と言うこと自体が恥ずかしいですよ」と言いながら、最後はしっかりアピールしてくれた。

 「一発屋と言われているような、世間的に負けたとか落ちたとか消えたとか面白くないみたいに言われてきた人たちは、ちゃんと見られていないだけで、実は頑張ってやっていて飯も食って生きているし、そもそも才能のある人たちなんだということを一番伝えたかったんです。みなさんそれぞれ1回あれだけ大きく売れるというのは、やっぱり才能がある人なんですよね。だから、レイザーラモンさんも今は正統派の漫才をやられていますし、テツトモさんもずっとやっていますし、コウメ太夫さんもいろんな番組で活躍されているんだと思います。この本を読んでいただいて、みんなすごいんだなということが伝わって、この人たちのことをこんな感じで書ける男爵の文才すごいなと思ってくれたら、ベストですね(笑)」。文壇で「ルネッサ〜ンス!」のとどろきが聞こえてくるのも、そう遠い未来ではなさそうだ。


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